ヒッチハイク第一号≪八月二十四日≫ (10日目) -壱-朝から、別な旅社にいる会長から伝言が届いた。 今日の夜までには、マレーシアホテルに移ってくるとの事だった。 今日は朝から、ホテル側との交渉で、104バーツの部屋から84バ ーツの部屋へ移ることができるようになった。 何が違うのかと言うと、ベッドがシングル二つになった事と、2階だ ったのが6階になった事で、エレベーターを使用しなければならなくなった 事、そして一番の違いは部屋に仲間以外の人がいなくなった為、遠慮がいら なくなったこと。 引越しを終え、フロントに鍵を預けて外に出る。 今日は四人で病院へ行くことにした。 香港で探したけど見つからなかった”急性肝炎の予防注射”をする為 である。 俺 「三割ぐらいしか効かないって話だぜ!」 政雄 「気休めだよ。」 鉄臣 「何だ・・・効かないの?」 政雄 「期待するなって事だよ!」 肝炎の恐ろしさを聞かされていた我々四人は、効果があろうとなかろ うと打っておくことにしたのだ。 目指すは、”The Bangkok Christian Hospital”だ。 ここから歩いてもそんなにかかる距離ではなかったが、後ろから車が 一台横に擦り付けてきた。 彼 「やあ!何処へ行くの?」 声を掛けてきたのは、昨日マレーシアホテルのロビーであった日本の 青年。 俺 「やあ!こんにちわ。クリスチャン・ホスピタルへ行こ うと思って。」 車の中から顔を出すと、笑顔で話し掛けてきた。 彼はもうタイに長く居て、同じ日本人に世話を焼きたがる好青年に見 えた。 何をして生活を立てているのか分からないが、一年に何回か日本に帰 っているとの事だった。 日本で軍資金を稼いで、タイでは王様のような生活をしているのだろ う。 一度やったら、辞められないということだろうか。 彼 「病院へ?何しに?」 俺 「肝炎の予防注射でも打っておこうかなと思っ て!」 彼 「肝炎かあ・・・・。あれは効かないって言うけど ね。」 俺 「皆そういうけど・・気休めにとでもいうのか な。」 彼 「そう!じゃあ・・乗れよ。近くまで乗っけってっ てやるよ!」 俺 「えー!でも四人ですよ!」 彼 「大丈夫だから、乗れ!乗れ!って!」 実にヒッチ第一号なのである。 これでもヒッチハイクには違いないんだから・・・。 車は運転手付きで、彼自身も急性肝炎にやられた経験者らし く、いろいろアドバイスしてくれた。 彼 「俺なんか、二年前に発病したんだけど、こればっか は治んないからね。」 俺 「治んないんですか!」 彼 「少しはよくはなるけど、完全には治んないって言う けどね。」 俺 「どんな症状になるんです?」 彼 「身体の力が抜けてきて、ボーッ!としていることが 多くなるね。生活するには少しばかりの支障なんだ けど、一生病人だかんね。まあ、予防しておいたほ うが少しは気休めになるかもね。」 俺 「予防と抗生物質で何とか乗り切るよりしょうがない な!」 彼 「風土病・・だかんね!」 そんな会話が弾んで、あっ!という間に車は病院の近くまで来 ていた。 |